世界の英知を復興へ Wisdom for Tohoku

12.11.09

【6つの提言】震災からの復興をめざし、 世界に誇れる水産業を構築するための提言

ノルウェーに視察に行ったメンバーから、震災からの復興をめざし、 世界に誇れる水産業を構築するための提言 を発表しました。

震災復興ノルウェー水産業視察チーム

提言1 持続的水産業にするための資源管理の徹底(VMS搭載とTACの厳格化とIVQの導入)
提言2 漁船、市場、加工、運搬等の効率化の推進
提言3 漁獲・養殖から販売までを統括する仕組みの構築(水産業の融合産業化)
提言4 水産物国際品質規格と、国内市場の拡大および輸出の振興
提言5 世界へ日本の食文化・とりわけ魚食文化を売り込む
提言6 水産復興をベースとしたまちづくり

提言1 持続的水産業にするための資源管理の徹底(VMS搭載とTACの厳格化とIVQの導入)
魚は国民全員の資源であり、持続的に水産業が発展するためには資源を維持する行動規範の制度化が大切である。
日本近海では、TACはあるものの、その運営には課題が多く、現に漁業資源が減少し、水産加工会社は存続に危機意識を持っており、海外に拠点を移す会社も多い状態にある。また漁業者も仲間内の競争にさらされ、充分な漁獲量の確保が難しく、収益の悪化をもたらしている。
資源管理が充分になされることが、三陸地方の水産業がじり貧の状態から脱却し、震災から復興するには、まずもって漁業資源管理の徹底が必須となることから、「育てて獲る(稚魚は獲らない、卵の乱獲はしない)管理方針」を早急に実施しなければならない。
また、資源管理は沖合漁業に限らず養殖業や定置網漁でも必要とされる。科学的根拠にもとづいた海水面の適正利用を図ることが価値の高い商品となることを学ぶ必要がある。
これらの制度化に関しては、国が戦略として取り組むべきであり、東日本大震災復興に向け、今こそ国家百年の計を持って当たるべき課題である。

【当面VMS(Vessel Management System衛星通信漁船管理システム)の搭載を各船に義務づけ、少なくてもTAC(Total Allowable Catch漁獲枠)7種に関しては一船あたり漁獲高を示すIVQ(Individual Vessel Quota漁船あたりのクオータ)の構築を図る。さらに上記を1魚種(例えばイカ)で実験してみること。海面養殖業では海面の利用計画を関係者で議論し、適正操業度を確保する】

提言2 漁船、市場、加工、運搬等の効率化の推進
1)高度な機能を持った魚市場の構築(フィッシュポンプとHACCPの導入)
産地市場は地域水産業の拠点の役割を担っているが、全体の流通から見た場合、効率が悪く衛生的にも課題を抱えている。市場は生ものを扱っていることから、鮮度には特段の配慮が必要であり、「漁船―消費者」、あるいは「漁船―加工場―消費者」といった全体流通の中に位置する役割や意義を見極め、流通の効率化に努めるとともに、衛生管理に特段の配慮が求められる。
産地市場の復活に当たっては、衛生確保,作業排水の適正処理のほか,高度衛生管理を持続的に継続するための情報・記録管理などが求められる。
また、加工場との位置的関係や配送のための施設設計等、水揚げ・荷捌きエリアの合理的な動線計画やゾーニングの一体整備が必要となる。さらには洋上オークションとまではいかないまでも、セリに関しての合理的な変革が必要とされている。

【当面フィッシュポンプと、氷と魚を別けるセパレーターの導入を図る。同時に、フィッシュポンプを日本の漁業に適したものにするため、実際に稼働しながら適合度合いを改善する研究事業等を行い、将来的に適用の拡大を目指す。またHACCPを導入するなど衛生管理を徹底する】

2)効率的な漁船の導入とそのための規制緩和(ノルウエー型漁船の導入)
市場の効率化に対応するためには、それにそった漁船が必要となる。例えば、魚漕には氷ではなく、-1度の水を入れるRSW(=Refrigerated SeaWater=海水冷却装置)の設置や、性能のいいレーダー、スキャニングソナーやネットゾンデ、エコサウンダー、GPS(VMS)等あらゆる無線機器の搭載、ホテル並の居住空間の設置などがあげられよう。
我が国の漁船の改造には、容積率の問題や船舶安全法、トン数制限、速度法、電波法等様々な規制があり、漁船の改造がスムースにいかない状況がある。我が国は既に最先端技術を持ち合わせており、これらの課題をクリアーして新たな漁船設計を可能にするとともに、もって造船業を活性化し海洋王国日本の復活につなげるべきである。

【当面、台湾で導入し始めているノルウエー型漁船の導入を試みる。またノルウエーの中古船をそのまま利用できる特区を設定する】

3)水産加工施設の機械化・効率化、標準化の推進
水産業の復興に水産加工業の発展・成長は欠かせない。水産加工業者は、地域を牽引する地域リーダーの位置にあり、今後の我が国水産業のイノベーターの役割が期待されてきた。漁家と手を取り合い地域の商品開発に努めるとともに、水産業の再生に向けたリーダーシップを地域で発揮することが望まれている。その加工業者が、魚の不足等で三陸での事業継続に不安を抱え、新規投資に躊躇する側面も見られる。ここは突破口を漁獲の安定化にもとめるとともに、業界全体で次のような課題に応えていくよう努力する。

【当面、世界のモデルとなるような水産加工場作りにつとめる(工場の機械化、効率化、標準化の推進、作業環境の改善、従業員の意識の向上、そしてなにより品質衛生管理の徹底、そのための記録の作成等HACCPへの取り組みの強化)。さらに、地域牽引企業として、地域の水産業全体の活性化に寄与するとともに、多(他)業種展開(加工に限らず漁業、商業、流通、観光、農業等)の可能性を模索する】

提言3 漁獲・養殖から販売までを統括する仕組みの構築(水産業の融合産業化)
1)流通の短縮化、サプライチェーンの構築を目指す
水産物の流通は、それぞれの機能を担う主体が異なり、分断され、産地と消費までの距離は遠いものとなっている。産地市場、加工場、消費地市場、小売店等、流通関係者は、相互に他の役割を担いながら、海から消費までの流通ルートの短縮化につとめ、より消費者に近づく努力をする必要がある。

2)付加価値の高い魚介類、商品の開発
資源管理を徹底して価値の高い魚介類を提供する。うにやあわびなど、さらに高い価値をつけるための工夫を凝らす新たな商品開発や市場開発をこれまで以上に積極的に推進する。

3)法人化、農商工連携、六次産業化の推進
上記1)2)を実現するため、漁家、水産加工業者、流通等との連携を強化する。
連携の方策は、漁・商・工連携(国の事業では「農商工連携事業」がこれに当たる)や、全ての水産関係者(加工業者、流通業者、漁家(養殖業者))が一つの法人(会社)を作ることまで様々に考えられる。
また、漁家(養殖業者)が一人でつくった会社でも、漁(養殖)から加工・販売まで手がけることもありうる(国の事業では「六次産業化」がこれにあたる)。連携をコーディネートしたり、漁業者と消費地を結びつけたりする浜のプランナーとしての起業も必要とされる。
復興には、それぞれの立場の人々が知恵を持ち寄り新たな産業を作り上げる(これを「産業融合化」「統合型1次産業」というが)気概が大切である。漁業者は、今後、合理的と考えられる行動様式をもっととりいれ、水産業の発展による震災復興を図る必要がある。

【当面、より消費者に近い新たな販売ルートを模索する。牡蛎、うに、あわび、わかめなど、さらに付加価値の高い商品開発を進める。漁家、水産加工業者・流通等との連携を図るなど、農商工連携、六次産業化を推進する。地元漁業者を中心とした法人化の推進に努め、水産業の発展に関し合理的と考えられることをシンプルに実行する】

提言4 水産物国際品質規格と、国内市場の拡大および輸出の振興
水産物による価値の増加は、新市場開拓、高付加価値化によってもたらされる。水産業界にとっては、国内市場の拡大はもとより、輸出の振興も射程に入れる必要がある。
我が国の市場は、世界マーケットから高付加価値の水産物原料や製品を調達しており、世界で最も目の肥えた市場となっている。その国内市場拡大のためには、安全・安心をより強調するとともに、世界レベルでの流通方式や品質の高さが求められる。漁家(生産者)や水産加工業者には、世界市場での規格・流通形態・生産方式などを常に意識し、国際規格に準じる様な変革が絶えず求められる。
そのことは今後、より付加価値の高い魚介類の輸出振興にもつながると考えられる。我が国においては地域ブランド化の取り組みは各地で行われているものの,そのほとんどが国内市場を意識したもので,グローバルに対応しようとするものにはなっていない。三陸には牡蠣、わかめ、ホタテ、ほや、ウニなどの良質の水産物が沢山あり、素直に良いものは良いものとして世界にも発信していけるのではないだろうか。今後は輸出も意識するなど、水産物市場の裾野をさらに広げ、JAPANブランドの構築など輸出体制の整備を図る必要がある。

【当面、新市場開発・輸出を視野に入れ、国際品質水準をクリアーできる高い付加価値をもつ産業にするとの意識の醸成に努める。国も、世界での品質水準の認定水準を認識するとともに、輸出のための書式やルールのシンプル化、JPAPANブランドの構築など、輸出の後押しに努める】

提言5 世界へ日本の食文化・とりわけ魚食文化を売り込む
三陸沿岸において“魚”は文化であり,魚を通じ自然や暮らしなど様々な関係や地域が成立している。生産地は、この文化を見つめ直し,次世代に継承し,適切なブランド化・情報発信の仕組みを整え、産業としての自信を取り戻すべきと認識している。
我々が作り上げてきた多彩な魚食文化は健康志向の高まりと相まってヨーロッパを初め世界中に受け入れられる可能性が高い。我が国はこうした文化の国内での定着と世界での普及に本腰を入れ、併せて水産物輸出に熱心に取り組む必要がある。

【魚食文化普及を絡めた商品開発を進める。その際アメリカ、ヨーロッパでの寿司事業・居酒事業等の展開をイメージしながら考えてみる。そのためにも、当面、牡蠣、うに、わかめ、ほたて、ほや等々の生産基盤の強化をはかる】

提言6 水産復興をベースとしたまちづくり
復興に当たっての都市計画やまちづくりは、産業と切り離されて議論されることが多い。しかしながら、世界の多くの港町は,水産業や海運業と深いつながりを持った町並み形成をしているのが現実であり、そのことがそれぞれの街に深い趣をえている。被災した多くのまちはすべからく漁業と関連した町であり、水産復興をベースとしたまちづくりが重要となっている。
例えば防潮堤を作るにしても、それを魚の倉庫街として利用するなど、産業と防潮堤とが決して切り離されたものでないような利用も考えるべきであろう。
産業がなければ、住民もいなくなる。「これまでの水産業」ではその傾向が強まることを震災前の状況は教えてくれていた。ここで水産復興をベースとしたまちづくりに取り組もうとすれば、一にも二にも、「新たな仕組み」で人々が集まるようなまちを作らなければならないだろう。その入り口は、魚という資源を大事に扱う「資源管理」と「効率化」の徹底にあると考えている。魚を大切にする三陸を作り、世界に誇れる魚の地域にすべきであろう。
【水産加工地域特区や世界一の魚市場プロジェクトの実施を考える】

カテゴリー:ノルウェーに学ぶ水産業   投稿日:15.08.20